ngc891
飛行機の轟音が右から左へと空を塗りつぶして行く。
灰色のアスベストのような空全体が凝結し、細かくひび割れて行く。
轟音が遠ざかるにつれ、都市の情景が周囲に立ち昇ってくる。
黒い箱型自動車が石畳の上を耳障りな軋りをあげて走り去る。子供たちの列が歩道を帰ってくる。
雑踏の中に絣の浴衣を着た一つ目小僧がひとり、ぽつんと佇んでいる。しかし道を行く人は誰も関心を寄せない。信号灯のような目が点滅し、長い舌を出したり入れたり。路面電車の停留所で、発車を知らせる鐘の鎖を引っ張って何度も鳴らしている。鐘は真昼の月のように森閑と響く。
鐘の音を聞いて、勤め人風の男や女たちが慌てて路面電車に群がり、飛び乗ったり飛び降りたりする様子が可笑しいのか、一つ目小僧は飽きもせず鐘を鳴らし続けている。
「おい、やめろ。いたずらしちゃ、いかん」
思いがけず怒気を含んだ声が出た。一つ目小僧の皿のような目に私の姿が鮮やかに映っていた。その姿がだんだん大きくなる。一つ目小僧が一本足で飛び跳ねながら、私に迫ってくるのだ。
一つ目小僧が追いかけてくる。
私が走り出すと、石畳の隙間から鋭いカヤの葉が伸び始め、見る見るうちに人の背丈を超えるほどに高くなる。やがて都市は見渡す限りカヤに覆いつくされ、無数の刀のようなカヤの葉が夕暮れの風に騒ぎ立つ。
私はカヤを掻き分けて、手の甲に切り傷をつけながら水音のする方角に向かう。
水の上を冷たい風が渡ってくる。カヤの密生を抜け出たところには小さな沼があり、石畳は緑色の水の中に消えている。沼の向こう岸にはカヤの原が続いている。
水のほとりから半透明のクラゲのような生物が這い上がってくる。骨のない長い胴体の中に血管や神経が透けて見える。頭には濡れた金髪が張り付き、その下にある顔は西洋人の顔だった。生物は列をなして上陸し、カヤの中に分け入って行く。
その列を追って行こうとすると、カヤを分けて一つ目小僧が目の前に顔を出した。
Images from
"ngc891" from "aqua" Edgar Froese
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